映画:奇跡のリンゴ
「誰も犠牲にしないものづくり」を、リンゴ栽培で実現するために奮闘されている方がいます。
その人は、木村秋則(きむら・あきのり)さん。
NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』や、映画にもなった書籍『奇跡のリンゴ』など、木村さんの挑戦は様々なメディアで伝えられています。
人の手によって品種改良が加わった現在のリンゴにおいて、栽培には農薬が不可欠。
その誰もが信じて疑わなかった常識に挑み続け、ついには「奇跡のリンゴ」と呼ばれる完全無農薬のリンゴ栽培を実現しました。
木村さんが、リンゴの無農薬栽培に挑戦する背景には、農薬に苦しめられるリンゴ農家への想いがあったと言います。
それは、奥さまが、農薬に過敏な体質で、「妻に辛い思いをさせないですむようにしたい」という願いから始まったそうです。
しかし、木村さんの、無農薬でのリンゴ栽培の挑戦は、想像を絶する苦難の連続でした。
醤油、牛乳、酢など、農薬に変わる“何か”を探して試行錯誤の日々を重ね、やがて収入はなくなり、どん底生活に突入。一時は全てを諦め、死を決意したことも…。
壮絶な孤独と絶望を乗り越えた末に実現したのが「奇跡のリンゴ」なのです。
現在、木村さんは無農薬のリンゴ栽培を普及するための活動にとどまらず、様々な分野における無肥料・無農薬・無除草剤の自然栽培農業指導のため、国内外を飛び回っています。
農薬に変わる“何か”が見つからず、諦めかけた木村さんに、無農薬でリンゴを栽培するという不可能を実現するための大きなヒントを与えてくれたのは、青森にある岩木山の木々でした。
農薬も肥料も何も与えていないのに、山の木は生命力に溢れている…。
雑草、落ち葉、虫、動物の糞など、様々なものが混じり合って、山には柔らかくて温かくて豊かな土がうまれている。その土から根を通じて、栄養が木の全体に送られていて、こんなに生き生きとした状態になっているのだと。
そのことに気づいた木村さんは、雑草を抜くことをやめ、畑の土を山の土に近づけるようにしました。木村さんの畑には様々な雑草が生え、その草陰で虫が鳴く。
終いには、野ネズミや野ウサギまでが走り回る状態になっていったそうです。
自然の中に、孤立して生きている命はないのだと木村さんは言います。すべての命が、他の命と関わり合い、支え合って生きていると。
書籍「奇跡のリンゴ」で木村さんは、こんなことを書いています。
「リンゴの木は、リンゴの木だけで生きているわけではない。
周りの自然の中で、生かされている生き物なわけだ。
人間もそうなんだよ。
人間はそのことを忘れてしまって、自分独りで生きていると思っている。
そしていつの間にか、自分が栽培している作物も、そういうもんだと思い込むようになったんだな。」
木村さんの畑に咲くタンポポは、なんと腰の高さまであるそうです。これは山で咲くタンポポと同じとのことです。
木村さんは、美味しい実をつくっているのはリンゴの木で、あくまで自分はリンゴの木のお世話をしているだけだと終始おっしゃっていました。
書籍「奇跡のリンゴ」のエピローグに書かれている一文を紹介します。
自然の手伝いをして、その恵みを分けてもらう。
それが農業の本当の姿なんだよ。
今の農業は、残念ながらその姿から外れているよ。
ということはさ、いつまでもこのやり方を続けることは出来ないということだよ。
昔は私も大規模農法に憧れたけど、その大規模農法地帯はどんどん砂漠化しているわけだからな。
アメリカの穀倉地帯も、昔のソ連の集団農場も、今どうなっているか見たらすぐわかる。
どんなに科学が進んでも、人間は自然から離れて生きていくことは出来ないんだよ。
だって、人間そのものが、自然の産物なんだからな。
自分は自然の手伝いなんだって、人間が心から思えるかどうか。
人間の未来はそこにかかっていると私は思う。
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